創業150年。伝統の技で打つ田舎そばの老舗。
国産そばを水車で回す石臼で挽き、自家製粉したそば粉100%で打つ本物の田舎そばを、信念を持って提供している。
そんな生粋のそば屋に、店主の意図せぬ人気メニューが存在する。
それが「鳥中華」だ。
もともと店員のまかないとして作ったものだが、それを見かけた近所の温泉で働く酌婦さんが「私も食べたい!」とリクエスト。
その場はやむなく出したのだが、人の口に戸はたてられないもの。
口コミで評判が広がり、一部の客にだけ提供する裏メニューに。
更に話は広まり、とうとう取材の話まで来るに至って、正式にお品書きへ掲載の運びとなった。
今やネットでお取り寄せもできるまでに。すっかり人気メニューだ。
ただし忘れてはいけない。ここが誇り高きそば専門店だということを。
賄い用に中華麺くらい用意したが、ラーメンスープなぞ作ろう筈も無い。
スープはどうしたかって?
無論、カツオ風味の日本そばのダシに決まっている。
水車生そばの主役はあくまで「蕎麦」。その繊細な味わいを殺さぬよう、そばダシはきわめてあっさりと仕上げてある。
その味を表現するのは難しい。
カツオだしには違いないが、あくまで控えめ。いわば『突出した味の要素がないという 強烈な個性を持つ和風スープ』とでも言おうか。
だからといって味が薄すぎるという事はない。
そば職人が丹精して取ったダシは骨格がしっかりしているので、そのままあっさり系ラーメンの上質なスープとして通用している。
具もあくまでそば屋としてのそれ。
肉は鳥そば用の鶏肉、海苔はもりそば用の刻み海苔、温そばには定番の三つ葉ときて、たぬきそば用の天かすでコクを加えているのだ。
唯一、スパイスだけがラーメンらしい要素かもしれない。
最後に、何度も言うが、ここはそば屋だ。
店主としては、鳥中華より伝来の田舎そばを食べてほしい、というのが偽らざる本心だろう。
その気持ちは、お品書きにもあらわれている。
40種近いメニューのうち、中華そば系は「鳥中華」を含めて3品のみ。
しかも店内のメニューを見ても、「ラーメン」などという項目は ない。
「うどん」の中に、鳥中華と鴨ラーメン。「冷たいそば」の中に、ざる中華が散見されるのみだ。
それもそのはず、いずれも純粋なラーメンではない。
そばダシで食う鳥中華、鴨そばダシの鴨ラーメン、そしてそばつゆで食すザル中華。そう、店側ではあくまで変わりそば的な扱いなのだ
こんなサイトのラーメンコーナーで喧伝されるなど、不本意もいい所かもしれない。どうせならそばの方で紹介してよ!と。
だが、山形ラーメンを語る上で、鳥中華は外せない。
鳥中華とくれば、この店は外せないのだ。ご容赦願いたい、五代目。
図らずも生まれてしまった そば屋・ジレンマの人気メニュー
私としてはせめて、そばも超個性的だからどうぞ!と言っておこう。
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